2026/10/03 22:20
10年以上前にテレビで見た、ある若い料理人の言葉が、今でも心に残っています。
「僕たちにとっては毎日の仕事だけど、お客様にとっては特別な食事」
たしか、そんな言葉でした。
料理人にとっては、毎日繰り返している仕事。
仕込みをして、料理を作って、盛り付けて、提供する。
昨日も今日も、きっと明日も同じような仕事をする。
でも、その料理を食べに来たお客様にとっては、その一食が大切な誰かとの食事だったり、楽しみにしていた休日の食事だったり、何かのお祝いだったりする。
同じ一皿でも、作る側と食べる側では、その意味がまったく違う。
そのことを、とても端的に表している言葉だと思いました。
「お客様目線で開発をする」
仕事をしていると、よく聞く言葉です。
僕自身、これまで機械や装置の開発をしてきた中で、何度も耳にしてきました。
もちろん大切なことです。
でも、実際に作る側にいると、どうしても「どう作るか」「どう効率よく作るか」「どう問題を解決するか」という、自分たち側の視点に意識が寄ってしまいます。
革小物を作るようになってからも、それは同じです。
設計をして、革を切って、穴を開けて、縫って、コバを磨く。
同じ財布を何個も作るのであれば、革をまとめて切り、穴を開け、縫っていったほうが効率はいい。
それでも、moripodworksでは基本的に、一つの商品を完成させてから次の商品に取りかかるようにしています。
一つずつ作ったほうが効率は悪いです。
でも、まとめて作業をしていると、どうしても一つひとつの商品が「作業の一部」になってしまう気がします。
一つの財布を完成させる。
その財布を手に取る人のことを考えながら、最後まで仕上げる。
そして、次の財布を作る。
そんなふうに、一つずつ完成させていきたいと思っています。
買う側の人にとっては、その財布が「たくさん作ったうちの一個」ではなく、自分が選んだ一つだからです。
もちろん、作り手にとっては何十個、何百個と作る中の一つになるかもしれません。
それでも、その一つを買ってくれる人にとっては、初めて手にするmoripodworksの財布かもしれない。
自分で頑張って働いたお金で買ったものかもしれない。
誰かへのプレゼントかもしれない。
そして、そこから何年も使っていくものかもしれない。
そう考えると、作り手にとっての「いつもの一個」と、使う人にとっての「特別な一個」は、同じものでも意味が違います。
だから、できるだけ慣れに流されないようにしたい。
一針一針きちんと縫うこと。
コバを最後まで磨くこと。
設計した寸法に意味があるか、もう一度考えること。
そういう一つ一つの作業を、単なるルーティンにしないこと。
10年以上前に聞いた料理人の言葉は、今でもそんなことを思い出させてくれます。
毎日の仕事だからこそ、毎回ちゃんと向き合う。
そんな気持ちを忘れずに、これからも一つずつ、ものづくりをしていきたいと思っています。